介護ソフトを入れたのに記録の負担が減らないのは、入力の手段を替えただけで、書く場所と書く回数が減っていないからです。生産性向上の次の一手は、新しい機能を足すことではなく、同じ情報を何箇所に書いているかを数えることから始まります。
そしてもうひとつ、最初に押さえておくべきことがあります。同じ「生産性向上」でも、特別養護老人ホームと通所介護では、やるべきことが制度上まったく別になります。加算も委員会も対象は施設系・居住系などで、通所・訪問・居宅介護支援は含まれません。一方、補助金の対象はその逆で、訪問介護も居宅介護支援も含む全サービスです。「生産性向上」で出てくる解説の多くは、この非対称に触れないまま加算と委員会の話をしています。
この記事では、対象の切り分けを先に置いてから、手をつける順番、AIでできること・できないこと、費用と期間、自社で進めるか外に頼むかの順で進みます。制度についての記述は、すべて2026年8月時点のものです。
記録が減らないのは、あなたの事業所だけではない
「介護ソフトは入れた。それでも記録が減らない」という状態は、あなたの事業所に固有の失敗ではなく、統計的には標準的な状態です。
介護労働安定センターの令和7年度「介護労働実態調査」(2026年7月29日公表、事業所調査の有効回収8,955件)によれば、パソコンの介護ソフトの記録入力機能を日常的に使っている事業所は全体で72.2%。サービス系型でみると施設系(入所型)83.2%、訪問系74.7%、居宅介護支援74.0%と高い一方、施設系(通所型)は67.4%、居住系は64.0%と7割に届きません。そのうえで、音声を文章にする機能を日常的に使っている事業所はパソコンで13.2%、タブレット・スマートフォンで16.0%にとどまります。記録の「置き場所」はほとんどの事業所でデジタルに移ったけれど、「書く行為」そのものはまだ人の手に残っている。これが全国の平均像です。
「記録ソフトは数年前に入れた。タブレットも配った。それでも申し送りは紙のノートに書いているし、月末の書類はやっぱり残業になる」。ご相談でよく伺う言葉ですが、ソフトの選定を間違えたわけでも、職員がサボっているわけでもありません。順番の問題です。
では、記録は実際にどれくらいの時間を占めているのでしょうか。厚生労働省の「介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業」(令和7年度事業・報告書は2026年3月公表)では、特定施設(介護付き有料老人ホーム等)12施設の介護職員206人を5日間タイムスタディした結果が公表されています。1日8時間(480分)のうち、直接介護は227.0分。「記録・文書作成・連絡調整等」は39.9分で、全体の8%でした。
この図は、期待とは逆向きに読むほうが役に立ちます。巡回・移動、記録、アセスメント、機器の準備といった間接業務を合計すると1日およそ170分、480分の約3分の1になります(※合計は公表された内訳の合算で、報告書に合計値の明示はありません)。ところが、その中で最も大きいのは記録ではありません。「その他の間接業務」(レクリエーションの準備などがこれにあたります)が105.7分で、記録・文書作成・連絡調整等の39.9分の2.6倍です。
つまり、記録だけを敵にしても、間接業務の3分の1は動きません。逆に言えば、記録を1日10分減らすことに何ヶ月もかけるより、間接業務全体をひと通り数えてから優先順位をつけたほうが、同じ労力で効きます。なお、この調査は生産性向上に積極的に取り組む施設が公募で参加したもので、12施設206人という規模です。全国の平均値ではなく、「進んでいる施設でもこの内訳」という読み方をしてください。
背景にある人手の状況も確認しておきます。同じ令和7年度「介護労働実態調査」では、従業員が「不足」と答えた事業所は65.8%で、前年度の65.2%からさらに上昇しました。職種別では訪問介護員が82.9%と7職種で最も高く、離職率は12.4%で横ばい、採用率は14.6%です。辞める人が増えているのではなく、入ってくる人が増えていない。働く人の側の悩み・不安の第1位も「人手が足りない」で52.3%でした。
そして厚生労働省の推計(令和6年7月公表・第9期介護保険事業計画に基づく)では、介護職員は2022年度の約215万人に対し、2040年度には約272万人が必要とされています。18年間で約57万人を増やす計算です。これは「57万人不足する」という予測ではなく、「増やす必要がある人数」の推計です。採用でそこまで積み上がる前提で計画を立てられる中小事業所は多くありません。だからこそ、今の人数でできることを増やす方向に投資する意味があります。
あなたの事業所は「加算・委員会」の対象か——通所・訪問は対象外
生産性向上推進体制加算と、運営基準で定められた生産性向上の委員会の対象は、短期入所系サービス・居住系サービス・多機能系サービス・施設系サービスに限られます。通所介護などの通所系、訪問介護などの訪問系、居宅介護支援は、令和6年度改定時点でいずれの対象にも含まれていません。
一方、都道府県が実施する補助制度「介護テクノロジー導入支援事業」の対象は正反対です。国の実施要綱(令和8年度)は「介護保険法に基づくサービスを提供する全てのサービス事業所(訪問介護事業所や居宅介護支援事業所を含む)」と養護老人ホーム・軽費老人ホームを対象とし、サービス種別で制限しないよう都道府県に求めています。
| サービス区分 | 加算・委員会 | 補助(介護テクノロジー導入支援事業) |
|---|---|---|
| 施設系・居住系・多機能系・短期入所系 | 対象 | 対象 |
| 通所系・訪問系・居宅介護支援 | 対象外 | 対象 |
この非対称を先に押さえておかないと、読む記事・聞くセミナーによって話が噛み合わなくなります。通所介護や訪問介護の管理者が「委員会をつくらないといけないらしい」と身構えたり、逆に「うちは加算の対象外だから生産性向上の話は関係ない」と補助制度まで見送ってしまったりする。制度が別なので、対象範囲も別になっているというだけのことです。
対象になる施設種別は、厚生労働省が示す加算の実績報告様式に具体的に列挙されています。短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設、看護小規模多機能型居宅介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、およびこれらの介護予防サービスです。自分の事業所の種別がここにあるかどうかを、まず確認してください。
委員会については、時期の扱いにもうひとつ注意点があります。令和6年度改定にあわせた運営基準(省令)の改正で「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会」の定期開催が義務付けられましたが、3年間の経過措置が設けられており、令和9年(2027年)3月31日までは努力義務です。義務として適用されるのは令和9年4月1日から。根拠は令和6年改正省令の附則第4条で、この期間は各規定の「しなければ」を「するよう努めなければ」と読み替える方式がとられています。
ただし、ここに非対称があります。生産性向上推進体制加算を算定する場合は、経過措置期間中であっても委員会の設置が必要とされています。「令和9年3月まではやらなくてよい」が成り立つのは、加算を取らない場合だけです。加算を視野に入れているなら、委員会は今すぐ必要になります。
委員会を作っただけでは記録は減らない——加算の金額が示していること
生産性向上推進体制加算は、金額で採算を変える加算ではなく、委員会とデータ提出という運用の型を作らせるための加算です。単位数は令和6年度改定時点で加算(I)が1月につき100単位、加算(II)が1月につき10単位です。1日あたりではなく月額であることを、まず押さえてください。加算(II)は月10単位。これで採算が変わることはありません。
要件を並べると、その意図がはっきりします。加算(II)の要件は、委員会の開催や必要な安全対策を講じたうえで生産性向上ガイドラインに基づく改善活動を継続的に行うこと、見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入していること、1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータをオンラインで提供することの3点です。加算(I)は、この要件を満たしたうえで、提出したデータにより成果が確認されていること、テクノロジーを複数導入していること、職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組等を行っていることが加わります。
| 加算(I) | 加算(II) | |
|---|---|---|
| 単位数(1月につき) | 100単位 | 10単位 |
| テクノロジー | 3分類すべて | 1つ以上 |
| 見守り機器 | 全居室 | 1居室でも可 |
| 職員間の役割分担 | 介護助手の活用等の取組が必要 | ― |
| 報告データ | 5項目 | 3項目 |
| 成果の確認 | 導入後3か月以上継続し前後比較で確認 | 不要 |
ここで巷の解説が最も間違えるのが、加算(I)の「複数導入」の解釈です。厚生労働省がいう「見守り機器等のテクノロジー」は、①見守り機器、②インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器、③介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の記録作成の効率化に資するICT機器(データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る)の3分類を指します。告示の文言は「複数」ですが、厚生労働省の解釈は「アからウまでに掲げる機器は全て使用すること」。つまり加算(I)の「複数」は3分類すべてであって、「2種類でよい」は誤りです。加算(II)はこのうち1つ以上で足ります。
見守り機器の設置範囲も区分で違います。加算(I)は全居室への導入が必要、加算(II)は1つの居室への導入でも算定できます(利用者や家族の意向に応じて機器の使用を停止する運用は認められています)。インカム等は加算(I)・(II)のいずれでも、同一の時間帯に勤務するすべての介護職員が使用することが必要です。
データ提出は事業年度ごとに1回、オンラインで行います。加算(II)は「利用者の満足度等」「総業務時間・超過勤務時間」「年次有給休暇の取得状況」の3項目、加算(I)はこれに「介護職員の心理的負担等」「タイムスタディ調査による業務時間の内訳」を加えた5項目です。加算(I)でいう「成果が確認されている」とは、ケアの質が確保(利用者のQOL等が維持または向上)されたうえで、総業務時間および超過勤務時間が短縮し、年次有給休暇の取得状況が維持または向上していることを指します。
委員会の運営については、事務負担を増やさないための実務情報が解釈通知に明記されています。加算を算定する場合の委員会は三月に一回以上の開催が必要で、管理者だけでなくケアを行う職員を含む幅広い職種やユニットリーダー等の参画が求められ、①利用者の安全及びケアの質の確保、②従業者の負担の軽減及び勤務状況への配慮、③介護機器の定期的な点検、④職員に対する研修、の4事項を検討することとされています。一方、加算を算定しない場合は「定期的に開催すること」とされるにとどまり、回数の定めはありません。
そして、この委員会は事故発生の防止のための委員会など他の会議と一体的に設置・運営して差し支えないとされ、テレビ電話装置等を活用した開催も認められています。方策が適切に検討される限り、法令とは異なる名称を用いても差し支えないとされています。新しい会議体を増やす必要はない、というのが制度側の立て付けです。外部の専門家を活用することも差し支えないとされています。
なお、委員会の議事録の作成そのものを義務と定めた規定は置かれていませんが、加算を算定する場合は成果の確認に関して委員会での議事概要の提出を求められる場面があるため、実務上は開催記録を残しておくことになります。この記録づくりを人手でやると会議のたびに負担が積み上がるので、後述するとおりAIに任せやすい領域です(進め方は「AIで議事録を作る|会議を資産化する仕組み」に整理しています)。
金額の小ささを見て「やらなくていい」と判断する前に、ひとつだけ申し添えます。当社が障害福祉・介護の分野の事業者を支援していて実感するのは、令和6年前後の報酬改定以降、加算を取りにいかない事業所は経営が成り立たなくなってきているということです。赤字と黒字を分けているのは、加算を取りにいけているかどうかです。生産性向上推進体制加算は、その中では金額が小さい部類です。それでも、取りにいく過程では業務時間を測る習慣、委員会という意思決定の場、機器の点検と研修の仕組みが残ります。これらは、他の加算を取りにいくときにも効きます。
記録の前に、同じことを何箇所に書いているかを数える
記録の負担を減らす順番は、①二重記入の棚卸し、②外向き/内向きの仕分け、③記録から請求までのつながりの点検、④様式と手順の言語化、⑤AI(音声入力・下書き生成)です。AIは最後に来ます。
1. 同じ情報を何箇所に書いているかを数える
最初にやるのは、機能の比較ではなく棚卸しです。介護の現場には、同じ出来事が複数の場所に書かれる構造があります。申し送りノート、連絡帳、記録ソフトの日誌、ヒヤリハット報告、家族への報告、そして加算のための実績記録。それぞれ様式も粒度も違い、同じ一件が何度も書かれます。
当社が支援している事業者で繰り返し行っている判断が、この二層構造の整理です。手短な記録と詳細報告が並走しているとき、情報は必ず散ります。そこで、詳細側に情報を集約し、手短な記録は索引に徹させる。要点は、手短な記録は「後で詳細を書く」前提で作られているのに、実際には詳細が書かれないまま案件が進んでいくという点にあります。介護でいえば、申し送りノートに走り書きしたまま記録ソフトには要点しか残らず、数か月後に経緯を追えなくなる、あの状態です。
数え方は簡単で、直近1週間の出来事を3件選び、それが何箇所に書かれたかを指折り数えるだけです。3箇所以上あれば、そこが最初の削りどころになります。この棚卸しの考え方は介護に限りません(一般的な進め方は「中小企業のDXは何から始めるか」にまとめています)。
2. 外向きと内向きに仕分ける
次に、業務を「外向き」と「内向き」に分けます。利用者・家族と向き合う時間は外向きで、ここは人で強化する対象です。自動化しません。記録・集計・転記・書類は内向きで、ここは仕組みで削る対象です。当社がDX投資の相談を受けたときに最初に置く判断軸ですが、介護においてはこの仕分けがそのまま制度の考え方と一致します。加算の要件が求めているのも「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保」と「職員の負担軽減」の両立であり、成果の確認も「ケアの質が確保されたうえで総業務時間が短縮していること」です。ケアの時間を削って総時間を短くする方向は、そもそも制度が認めていません。
介護で判断に迷うのは、外向きに見えて中身は内向き、という業務です。典型が家族への連絡帳と申し送りで、書いている内容の大半はすでに記録ソフトに入っている情報を、相手に伝わる形へ整え直したものです。これは転記であり、仕組みで削る側に置けます。一方、家族から相談を受けてケアの方針を一緒に決める時間は、同じ「家族対応」でも削ってはいけない外向きの時間です。仕分けの単位を「相手」ではなく「その時間に何をしているか」に置くと、判断がぶれません。
3. 記録から請求まで、転記なしでつながるか
介護ソフトの選び直しを検討するなら、判断基準を補助制度の要件から引くのが早道です。国の実施要綱(令和8年度)は、補助の対象になる介護ソフトの条件として「記録業務、情報共有業務、請求業務を一気通貫で行うことが可能」で「転記等の業務が発生しないもの」と定めています。
これは補助の可否だけの話ではありません。記録して請求まで転記なしでつながるかどうかが、現場の負担が減るかどうかの分かれ目でもあります。記録は記録ソフト、請求は別の請求ソフト、その間を月末にExcelで橋渡ししている。この構成のままAIを足しても、月末の山は動きません。今のソフトがこの条件を満たしているかを、まずベンダーに確認してください。満たしていないなら、それは「AIの前に決めること」です。
4. 様式と手順を言語化する
削れる様式を削り、残す様式は「誰が・いつ・どこまで書くか」を文章にします。地味ですが、ここを飛ばすと次のAIの効果が測れません。
5. 最後にAIを足す
ここまで来て、はじめて音声入力や下書き生成が効きます。効果の見積もりは控えめに置くのが実際的です。記録ソフトの音声入力を導入した厚生労働省の実証(令和7年度、介護老人福祉施設・介護老人保健施設の2施設・介護職員18名という小規模な検証)では、「記録・文書作成・連絡調整等」の時間が1日42.5分から31.4分へ減りました。1日約11分減った例がある、という水準の話です。2施設18名の検証結果なので、率に直して一般化はできません。
もうひとつ、同じ厚生労働省の効果測定事業の報告書には、特定施設の実証で議事録自動作成ツール(音声を収音して文字起こしし、AIが要約する仕組み)が複数施設で使われた取組が記載されています。委員会や申し送りの記録は、AIを最初に試す対象として現実的です。
進め方で1点だけ。一気に全部やらせないこと。担当者自身が効果を測れる範囲から通すのが、続く導入と続かない導入を分けます。音声入力なら「まず1ユニット・1か月」。議事録なら「委員会の1回分」。測れる単位で始めれば、効かなかったときに戻せます。
介護記録でAIに任せられる範囲と、法令が人に残している範囲
介護の現場でAIが担えるのは、記録の下書き、音声からの文字起こし、委員会や申し送りの議事録、書類の体裁づくり、過去記録の検索と要約までです。ケアプランの作成そのものと、要配慮個人情報を渡してよいかどうかの判断は、AIに預けられません。
できることのほうから具体的に挙げます。口頭で伝えた内容を記録の文章に整える。会議の音声から議事概要を起こす。長い経過記録から「転倒に関する記載」だけを拾う。家族への報告文の体裁を整える。加算の実績報告に向けて、手元の資料を項目ごとに並べ替える。いずれも「材料はこちらにあり、形を整える仕事」です。この線引き自体は業種を問わない話なので、一般的な整理は「AIにできること・できないこと」に譲ります。ここからは介護に固有の線引きを書きます。
ケアプランは介護支援専門員の業務
指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)第13条第1号は、「指定居宅介護支援事業所の管理者は、介護支援専門員に居宅サービス計画の作成に関する業務を担当させるものとする」と定めています。
さらに同条は、アセスメントは介護支援専門員が利用者の居宅を訪問して本人・家族に面接して行うこと(第7号)、介護支援専門員が居宅サービス計画の原案を作成すること(第8号)、サービス担当者会議で担当者から専門的な見地の意見を求めること(第9号)、原案の内容を説明して文書により利用者の同意を得ること(第10号)、計画を利用者と担当者に交付すること(第11号)を定めています。訪問しての面接、サービス担当者会議、文書による同意。この手順は、AIを使っても省けません。
AIに置けるのは、原案づくりの材料までです。過去の記録から状態の変化を拾う、記載の抜けを点検する、表現を整える。そこから先は介護支援専門員の業務として残ります。国の位置づけも同じ段階にあり、厚生労働省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」中間整理(令和6年12月12日)は、ICTの活用による業務効率化とケアプランデータ連携システムの普及を挙げたうえで、「国においてAIによるケアプラン作成支援に向けた調査研究を進めることが重要である」としています。調査研究を進める段階、という表現に忠実であるべきところです。
介護記録は要配慮個人情報
介護の記録に書かれる病歴や心身の状態は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたります。医療・介護の個人情報の扱いは、個人情報保護委員会と厚生労働省が連名で出す「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日策定、令和8年4月一部改正)が基準です。
要配慮個人情報の取得や、その個人データの第三者提供には原則として本人の同意が必要で、いわゆるオプトアウト(本人に通知して拒否がなければ提供できる方式)による第三者提供は認められていません。なお、利用者本人から書面や口頭で直接聞き取って記録する場合は、本人がその情報を提供したこと自体をもって取得についての同意があったものと解されます。
「委託」は第三者提供ではない
ここは混ぜると誤りになるので、段落を分けます。介護ソフトやシステム事業者に記録の取扱いを委託する場合、それは第三者提供ではなく「委託」にあたり、本人の同意は要りません。その代わり、委託元である事業所に委託先を監督する義務(法第25条)が生じます。安全管理措置を契約に盛り込み、適切に行われているかを定期的に確認することが求められます。「クラウドに預けたら第三者提供になる」という説明を聞くことがありますが、正確ではありません。
クラウドの分かれ目は「取り扱うことになっているか」
クラウドを使う場合の判断の分かれ目は、「サーバに個人データが入っているか」ではなく「そのクラウド事業者が個人データを取り扱うことになっているか」です。契約でデータを取り扱わないと定められ、アクセス制御が適切であれば、第三者提供にも委託にも当たらないとされています(個人情報保護委員会Q&A Q7-53・Q7-54)。ただしその場合でも、事業所自身が安全管理措置を講じる責任は残ります。
生成AIに入れる前に確認すること
生成AIに何を入れてよいかの一般論、つまり学習に使われるかの境界(無料か有料かではなく個人向けか法人向けか)、各社公式の記載、保存と学習の違いは「社内の機密情報をAIに入れても大丈夫か」に整理しています。ここでは介護に固有の2点だけを書きます。
ひとつは、確認が制度上求められていることです。個人情報保護委員会は「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日発出)で、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は個人情報保護法違反となる可能性があるとしたうえで、入力前に「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めています。3年前の文書ですが、確認の順序を示している点で今も実務の基準です。介護記録は要配慮個人情報にあたるため、この確認の重みは他業種より大きくなります。法人向けは既定で学習に使わないのが各社共通の扱い、個人向けプランは設定によっては会話がAIの改善に使われます。使われないようにする設定が用意されているので、業務で使う前にその設定を確認してください。法人契約は、データの扱いを契約で担保したい場合の選択肢のひとつです。
もうひとつは、入れない情報を介護の言葉で決めておくことです。利用者の氏名・住所・生年月日、病名や服薬の内容、家族構成や家庭の事情、居室番号。これらは特定につながるので入れない。代わりに「80代女性・要介護3・夜間に3回の起き上がりがある方」といった一般化した書き方に直してからAIに渡す。この線を紙1枚の運用ルールとして事業所で決めておくだけで、記録の下書きも議事録も扱える範囲がかなり広がります。逆にこれを決めずに「AIは危ないから禁止」とすると、使える場面まで一緒に閉じることになります。
なお、個人情報保護法は令和8年7月10日に改正法が成立し、7月17日に公布されています(施行はこれから)。ここまでの記述は2026年8月時点の現行法にもとづくものです。
導入費は補助の基準額から、期間は半年〜1年から読む
介護テクノロジーの導入費用そのものについての公的な統計はありません。手がかりになるのは、都道府県が実施する「介護テクノロジー導入支援事業」の基準額です。これは、補助の対象として認められる上限の算定基礎にあたります。令和8年度の国の基準額は、介護ソフトが職員数に応じて100万〜250万円、移乗支援・入浴支援・インカムなどが1台100万円、それ以外の機器が30万円。そして期間は、当社の福祉・介護の支援では半年から1年の移行期間を見込んでいます。費用は制度に書いてありますが、期間はどこにも書かれていません。
この事業は、かつて別々だった「介護ロボット導入支援事業」と「ICT導入支援事業」を令和6年度に統合・再構築したもので、令和8年度(2026年度)も継続しています。制度の特徴を、実務に効く順で挙げます。
実施主体は都道府県です。 国の実施要綱に「本事業の実施主体は、都道府県とする」と明記されており、申請先は自分の事業所がある都道府県になります。ここから先の数字は、すべて県によって変わります。
上限額は国が幅を決め、その中で都道府県が確定させます。複数機器を組み合わせて入れる「パッケージ型導入支援」は、国の実施要綱で「400万円以上、1,000万円以下で都道府県が設定する額」とされ、令和8年度は兵庫県が700万円、愛知県が1,000万円と、県によって上限が違います。補助率も、令和8年度の国の実施要綱では5分の4とされていますが、財源の系統や年度によって「4分の3を下限」「2分の1を下限」といった別の率が使われることもあります。率は年度と財源で動くため、自県の要綱に当たるのが確実です。
対象になるのは機器本体だけではありません。令和8年度の国の実施要綱では、介護ソフト、インカム、見守り機器、電子サイン・勤怠などのバックオフィスソフトに加え、介護ソフトと一緒に使うタブレットやPC、Wi-Fi工事、ベンダーの導入サポート費用まで含まれます(介護ソフトは、タブレットやWi-Fi整備などの定着促進支援を合わせると115万〜265万円)。導入と一体で受ける業務改善支援も48万円が基準額として立っています。一方で、通信費・保険料・メンテナンス費は対象外とされています。
ただし「買うだけ」では受けられません。令和8年度の国の実施要綱は、導入と一体で業務改善支援を受けること、施設・居住系は職員の負担軽減を検討する委員会を設置すること、訪問・通所系などは年度内にケアプランデータ連携システムの利用を始めることを要件にしています。同じ機器について他の補助金ですでに助成を受けている場合は対象外で、二重取りはできません。
時期の注意点が2つあります。ひとつは、募集時期が都道府県ごとに数か月ずれること。同じ2026年でも、宮城県は7月14日に募集を始めて8月14日に締め切った一方、愛知県の締切は8月31日、鹿児島県は8〜9月頃に募集開始予定でした。「来年度になったら考える」では、その年の枠を逃します。もうひとつは、予算枠があるため申請すれば必ず通るとは限らないこと。宮城県は「申請額の総額が予算額を上回った場合には、審査により不採択となる場合があります」と明記しています。加えて、多くの自治体で交付決定より前に契約・購入したものは対象外になります。
探し方も書いておきます。事業の名前は自治体ごとに違い、「○○県介護テクノロジー導入支援事業費補助金」「介護業務における介護テクノロジー導入支援事業」など呼び方が分かれます。検索するときは事業名ではなく「都道府県名+介護テクノロジー 補助」で自県のページを直接探すのが早いです。相談先としては、生産性向上や人材確保のワンストップ窓口である「介護生産性向上総合相談センター」が全国47都道府県すべてに設置されており、厚生労働省のサイトに窓口の一覧が出ています(窓口の名称は県ごとに異なります)。
ここまでの基準額は、あくまで機器の値ごろ感です。AI導入そのものの費用の全体像、つまり初期費用と運用費の2階建てで読むことや、運用費の書かれていない見積は不完全であることは「AIエージェント導入の費用相場と進め方」にまとめています。介護に限らず共通する部分なので、見積を比較する前に一度目を通しておくと判断が早くなります。
そして冒頭に置いた期間の話に戻ります。「導入日=完成日」で予算も人員も組むと、必ず途中で息切れします。 理由は次章に書きます。
使う人の側に、時間と手当てが要る
介護・福祉のICT導入が半年から1年かかるのは、機器の設置に時間がかかるからではありません。使う人の側に、時間と手当てが要るからです。
福祉分野の支援先で共通して見てきたのは、職員の年齢層が高く、派遣で入る方も含めてITに不慣れな人が一定数いるという現実です。ここで効くのは研修の回数よりも、画像付きの丁寧なマニュアルでした。画面のどこを押すのか、押すとどうなるのかを、スクリーンショットに矢印を書き込んだ手順書にする。それを配ったうえで、半年から1年の移行期間を見込む。この組み合わせで、70歳を過ぎた職員がパソコン入力をできるようになった例もあります。年齢はできない理由になりません。時間と手当ての問題です。
もうひとつ、正直に書いておくべきことがあります。介護・福祉の現場には「苦労して手作業でやることに価値を見出す文化」があり、ICTやAIを使わない層が一定数います。これを「抵抗勢力」と呼んで切り捨てる進め方は、うまくいきません。手をかけることを大事にしてきたからこそ質が保たれてきた側面が、実際にあるからです。
有効なのは、価値の置き場所を変える説明です。「手をかけない」のではなく、「手をかける先を変える」。事務作業は仕組みに任せ、そのぶんの時間を人にしかできない対人サービスに割く。前章で書いた外向き/内向きの仕分けは、そのまま職員への説明の言葉にもなります。強制ではなく、置き換えとして伝わったとき、現場は動きます。
事業所の実感としても、効果は出ています。令和7年度「介護労働実態調査」では、介護テクノロジーの導入について「昼間の業務負担の軽減に効果がある」と答えた事業所は53.8%、「夜間」は47.2%。特別養護老人ホームなど施設系(入所型)に限ると76.8%・74.2%と高くなります(いずれも事業所の実感による回答で、実測ではありません)。勤務時間の短縮を挙げた事業所は42.7%、介護の質の向上は40.1%でした。半数前後という数字をどう読むかですが、少なくとも「入れても何も変わらない」が多数派ではありません。
もうひとつ、AIを単発の効率化で終わらせないための原則があります。手順の言語化が先、AIが後です。介護での典型的な失敗形はこうなります。音声入力を使いこなす職員が一人いて、その人の言い回しだと変換の精度が高い。ところがコツが本人の中にしかないので、その職員が夜勤に入った日の日勤帯は、記録が元の手入力に戻ってしまう。工数は一時的に減っても、その業務を回せる人が「AIを上手に使えるあの職員」ひとりに移っただけで、属人化は解消していません。言い回しのコツを手順書に書き出し、誰が打っても同じ精度が出る状態にして、はじめて担当が替わっても回ります(考え方は「属人化の解消をAIで進める」に詳しく書きました)。
棚卸しと委員会は自社で、請求までの設計は外に
ここまでの工程のうち、半分以上は外部に頼まずに進められます。分かれ目は「担当者自身が効果を測れるか」と「止まったときに自分たちで戻せるか」の2つです。
自社で進められるのは、次の範囲です。二重記入の棚卸し。様式の削減。委員会の立ち上げと運営(他の会議と一体で運営してよく、オンラインでもよく、名称も自由です)。今使っている介護ソフトの使い方の見直し。特に、使っていない機能がないかをベンダーに聞くこと。そして手元のAIで議事録や記録の下書きを試すところまで。いずれも、うまくいかなければ元のやり方に戻せますし、効果は現場の担当者が自分で測れます。
外に頼んだほうがよいのは、次の4つです。記録から請求までの流れの設計。複数システムのつなぎ込み。補助金の要件に合わせた導入計画(交付決定前に契約すると対象外になるため、順序の設計が要ります)。そして要配慮個人情報を扱う運用ルールの整備です。共通しているのは、失敗したときに戻すコストが高いこと、判断に制度と技術の両方の知識が要ることです。
判断に迷ったら、「これは自分たちで測れるか」を先に問うのが早道です。測れるものは自社で回して構いません。測れないもの、止まったときに現場が業務を続けられなくなるものは、設計の段階から外の目を入れたほうが安く済みます。
よくある質問
Q. 居宅介護支援事業所です。ICTを入れると、担当できる件数は増えますか。
「上限が外れる」わけではありませんが、報酬と人員基準の両方が動きます。令和6年度改定で、居宅介護支援費(I)の逓減開始は介護支援専門員1人あたり取扱件数「40未満」から「45未満」に、居宅介護支援費(II)は「45未満」から「50未満」に改められました。逓減制は「これ以上担当できない上限」ではなく、超えた部分の1件あたり単位数が下がる仕組みです。あわせて運営基準の人員基準も、常勤の介護支援専門員1人につき利用者44人(要件を満たす場合は49人)に対して1人を基準とする形に改められています。
(II)の要件は、改定前の「ICT機器の活用または事務職員の配置」から「ケアプランデータ連携システムの活用および事務職員の配置」(両方を満たすこと)に変わりました。実務で効くのは、この事務職員の配置は常勤でなくてよく、同一法人内の配置でも認められ、勤務時間数に特段の定めもないという点です。算定にあたっては、電子情報処理組織を使用する方法により市町村長へ所定の様式で届け出る必要があります。
Q. 加算(II)から順に取らないといけませんか。
その必要はありません。従来から取組を進めている事業所は、加算(II)を算定せずに最初から加算(I)を算定することもできるとされています。ただし加算(I)には、介護機器の導入後に生産性向上の取組を3か月以上継続したうえで、導入前後を比較して業務の効率化・ケアの質の確保・職員の負担軽減が行われたことを確認する、という手順が必要です。準備としてもう1点、実績報告システムへのログインにはGビズIDのプライムIDまたはメンバーIDが必要で、エントリーIDではログインできません。GビズIDの取得には日数がかかるので、早めに手配しておくと詰まりません。
Q. LIFEへの入力もAIで楽にできますか。
まず制度の位置づけを整理します。LIFEは「科学的介護情報システム(Long-term care Information system For Evidence)」の略称で、2021年度(令和3年度)にVISITとCHASEを統合して運用が始まった、厚生労働省のデータ収集・フィードバックの仕組みです。利用者の状態やケアの内容を提出し、全国のデータに基づくフィードバックを受け取る形で、一部の加算はこのデータ提出が算定要件になっています。令和6年度改定では、科学的介護推進体制加算をはじめとするLIFE関連加算のデータ提出頻度が少なくとも3月に1回に見直され、入力項目の定義の明確化など入力負担の軽減が図られました。
LIFEは定められた項目に定められた形式で入力する仕組みなので、AIに文章を作らせる余地は多くありません。効くのは、記録ソフト側で日々の記録がそのまま提出項目につながっている構成にすること、つまり転記をなくすことです。なお、科学的介護推進体制加算の対象は通所系・入所系サービスで、居宅介護支援は含まれません。
Q. 補助金の対象になる機器は、どう選べばよいですか。
手当たり次第の機器が通るわけではありません。補助の対象機器は、国が定める「介護テクノロジー利用の重点分野」(令和6年6月の改訂で9分野16項目)に沿って、テクノエイド協会の福祉用具情報システム(TAIS)で「介護テクノロジー」として選定されたものが原則になります。順序としては、機器を決めてから補助を探すのではなく、重点分野のどれに当たる課題なのかを先に言葉にして、その分野で選定を受けている機器の中から見比べるほうが早く進みます。導入を検討している機器がこの選定を受けているかどうかは、見積を取る段階でベンダーに確認してください。
Q. 音声入力を入れれば、記録の残業はなくなりますか。
なくなるとは言えません。音声入力が減らすのは「書く手間」であって、「書く場所の数」ではないからです。申し送りノートと記録ソフトの両方に書いている状態のまま音声入力を足せば、両方を音声で書くことになります。加えて、居室や廊下では利用者・家族の耳があり、声に出しづらい場面があります。静かに話せる場所と時間を業務動線のどこに置くかが、機器の性能より効いてくる部分です。記録の種類によっても向き不向きがあり、選択式の項目や定型の文言まで音声で言おうとすると、記録ソフト側の定型文を選ぶより遠回りになります。効くのは自由記述の経過記録です。口頭でなら説明できるのに、書くとなると手が止まる部分がここにあたります。
ご相談ください
AI Advanceは福祉・介護の分野で、記録と書類の棚卸しから、記録から請求までの流れの設計、要配慮個人情報を扱う運用ルールの整備までをご一緒してきました。制度と現場の順序を決めるところは「AI導入コンサルティング」で、記録の下書きや議事録のように実際に動く仕組みを作るところは「AIエージェント構築・運用」でお受けしています。甲府を拠点に、中小企業のAI導入を経営とシステムの両面から支援しています。
「うちのサービス種別だと、どこから手をつけるのが早いか」。その切り分けからご相談いただけます。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。