本文へスキップ
AI Advance株式会社
AI活用 AI Advance
公開日: AI活用AI導入

マイソク作成に追われる不動産会社の、手をつける⁠順⁠番

執筆: 池田 哲郎(代表取締役・中小企業診断⁠士⁠)

マイソク作成の効率化とは、物件ごとの募集図面のうち「決まった項目の転記」と「紹介文の下書き」を機械に渡し、人は写真の選び方と表示の適法性の確認に時間を使える状態にすることです。1枚を丸ごと自動で仕上げることではありませ⁠ん⁠。

繁忙期に「今日中にあと何枚」と数えながらマイソクを作っている会社は少なくありません。物件概要を打ち込み、写真を選び、間取り図を貼り、アピール文をひねり出し、レイアウトを整える。1枚ごとの作業は小さいのに、枚数が増えると営業の時間が丸ごと消えていきます。この記事は、その作業を工程に分けたうえで、どこから手をつければ一番早く楽になるかを書いたもので⁠す⁠。

なお、不動産業の業務全体をどう仕分けるかは「不動産業のAI活用|業務を分解すると導入場所が見える」に整理してあります。本記事はそのうち、物件資料づくりの1工程を深掘りしたもので⁠す⁠。

マイソク1枚の時間は、どの工程に乗っている⁠の⁠か

マイソク作成が終わらないのは、性質のまったく違う4つの作業が1枚の紙の上で混ざっているからで⁠す⁠。

物件概要(所在地・面積・構造・設備・賃料や価格・取引条件)の転記、写真の選定と補正、間取り図の作成や差し替え、そして物件の魅力を伝えるアピール文。最後にこれらをレイアウトへ流し込み、印刷やPDFにして配布します。作業としてはひとまとまりに見えますが、機械に渡せる度合いは工程ごとにまったく違いま⁠す⁠。

機械に渡しやすい 人の判断が要る 1 物件概要の転記 所在地・面積・構造・設備 賃料・取引条件 2 写真の選定・補正 どれを1枚目に置くか =営業の判断 3 紹介文の下書き アピール文・キャッチコピー ポータル掲載原稿 4 レイアウト・配布 間取り図・地図の配置 印刷・PDF・送信 1と3から着手する
図1:マイソク作成の4工程。着手の順番を決めるための仕⁠分⁠け

工程2の写真は、どれを1枚目に置くかで問い合わせが変わる営業判断そのものです。工程4のレイアウトは、専用ソフトや作成代行という既存の選択肢があり、生成AIが一番苦手とする領域でもあります。残る工程1と3、つまり転記と文章が、いま最も手軽に減らせる場所で⁠す⁠。

生成AIで先に減らせるのは「文章」の⁠部⁠分

紹介文の下書きは、生成AIが最も安定して成果を出す使い方です。理由は単純で、正解が1つに決まらず、下書きの良し悪しを人がその場で判断できる作業だからで⁠す⁠。

具体的には、物件の条件(間取り・設備・周辺環境・想定する入居者像)を渡して、アピール文とキャッチコピーの案を複数出させます。このとき自社の過去のマイソクから、反響が良かったものを2〜3枚読ませておくと、出てくる文章が自社の型に寄ります。ゼロから「良い紹介文を書いて」と頼むより、はるかに使える下書きが出ま⁠す⁠。

当社が不動産会社向けに行った業務活用研修でも、題材にしたのはこの物件紹介文でした。これまで1件ずつ手書きで、忙しいと後回しになっていた作業です。研修では、たたき台をAIに数分で出させ、担当者は仕上げに集中する型を練習しました。研修期間中に「紹介文はまずAIに下書きさせる」という進め方が現場に残り、それが最初の小さな成功事例になりまし⁠た⁠。

ポータルサイトへの掲載原稿も同じ扱いができます。マイソク用に作った文章を、掲載枠の文字数に合わせて縮める・言い換えるといった作業は、生成AIの得意な範囲で⁠す⁠。

AIが書いた紹介文を、そのまま出せない⁠理⁠由

生成AIの下書きをそのまま広告に使えない理由は、不動産広告の表示ルールが、日常語としては自然な表現をいくつも制限しているからです。AIは「魅力的な文章」を書きますが、「規約に適合した文章」を書いているわけではありませ⁠ん⁠。

宅地建物取引業法第32条は、広告について「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁じています(e-Gov法令検索・宅地建物取引業法)。さらに業界の自主ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」は、個別の用語まで基準を定めていま⁠す⁠。

生成AIが出しがちな表現と、ルール上の扱いを並べると次のようになりま⁠す⁠。

AIが出しがちな表現ルール上の扱い人が確認すること
駅から徒歩5分の好立地徒歩の所要時間は道路距離80mにつき1分として算出し、1分未満の端数は1分とする(表示規約施行規則 第9条第9号)道路距離で測った数字か
新築の明るい室内「新築」は建築工事完了後1年未満で、居住の用に供されたことがないもの(表示規約 第18条第1項第1号)築年数と入居歴が条件に合うか
地域最安・絶対に後悔しません「完全・絶対」「業界一」「格安・激安」等は、合理的な根拠を示す資料を現に有する場合を除き使用できない(表示規約 第18条第2項)根拠資料が手元にあるか
(取引態様の記載が無い)広告には売主・代理・媒介の別を明示する義務がある(宅建業法 第34条)原稿に取引態様があるか
まだ空いています(実際は申込済み)取引できない物件・取引する意思のない物件の広告はおとり広告として禁止(表示規約 第21条)今日の募集状況と一致するか

出典は、公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会が公開している不動産の公正競争規約全文および表示規約施行規則で⁠す⁠。

工事完了前の物件については、宅建業法第33条が、必要な許可等の処分を受けた後でなければ広告できないと定めています。着工前の物件で先に原稿だけ用意しておく運用は、この点に注意が要りま⁠す⁠。

ここで言いたいのは「AIは危ないから使うな」ではありません。制限がかかるのは4工程のうち工程3だけで、しかも確認すべき項目は上の表のように数えられる範囲に収まる、ということです。数えられるなら、チェック表にできま⁠す⁠。

手をつける順番——4ステ⁠ッ⁠プ

一度に全部を変えようとすると、たいてい道具選びで止まります。順番は次の4つで⁠す⁠。

  1. 反響の良かったマイソクを2〜3枚選ぶ。 これが自社の「型」の定義になります。この作業だけは経営者か営業責任者がやってくださ⁠い⁠。
  2. 紹介文の下書きだけをAIに任せる。 物件条件と型のマイソクを渡し、案を3つ出させて、担当者が選んで直す。ここまでは追加費用なしで今日から試せま⁠す⁠。
  3. 確認のチェック表を1枚作る。 徒歩分数の根拠、「新築」の使用可否、特定用語の有無、取引態様の記載、募集状況。前章の表をそのまま自社の様式にすれば足ります。AIを入れる前より確認が雑にならないことが、この工程の目的で⁠す⁠。
  4. 転記を仕組みにする。 ここまで回ってから、物件データから概要欄へ自動で流し込む仕組みを検討します。専用ソフトで足りるのか、自社のデータの持ち方に合わせて作るのかは、この段階で初めて判断できま⁠す⁠。

2と3を飛ばして4から入ると、たいてい「入れたけれど現場が使わない」で終わります。人が毎日触る工程で先に効果を出しておくと、4への投資判断も社内で通りやすくなりま⁠す⁠。

写真・間取り図・レイアウトは、AIの前に型を固⁠め⁠る

工程2と4は、AIの前にやることがあります。テンプレートを1つに決めることで⁠す⁠。

写真は、掲載する順番の型を決めるほうが先です。外観から入るのか、居室から入るのか、水回りを何枚目に置くのか。担当者ごとに違うままだと、どんな道具を入れても仕上がりは揃いません。なお、家具を合成するホームステージングのような画像加工は、実際の状態と異なる印象を与えないかという点で、前章の誇大広告の論点にそのまま接続します。加工の有無を明示するなど、社内の線引きを先に決めてくださ⁠い⁠。

レイアウトは、マイソク作成用のソフトや作成代行という選択肢が既にあります。生成AIに1枚のレイアウトを組ませようとするのは、いまのところ遠回りです。ここは既製品を使うか外注するかの、素直な比較で決めるのが早い領域で⁠す⁠。

費用と期間の⁠目⁠安

工程3(紹介文の下書き)は、生成AIの一般的な料金の範囲で始められます。0円から1人あたり月数千円程度で、この工程だけなら追加の開発は要りません。着手から現場に型が残るまでは、研修や試行を含めて数週間というのが当社の実感で⁠す⁠。

工程1(転記の自動化)まで踏み込む場合は、自社の物件データがどこにどう入っているかで難易度が大きく変わります。個別に作り込むなら、最初の1機能に絞って数十万円規模から、というのが当社の相場観です。見積の読み方は「AIエージェント導入の費用相場と進め方」に譲りま⁠す⁠。

補助金では、自社の業務に合わせた作り込みが中小企業省力化投資補助金(一般型)の対象になる場合があります。要件は公募の回ごとに変わるため、最新の公募要領の確認が前提です。考え方は「AI導入に使える省力化投資補助金の考え方と注意点」にまとめていま⁠す⁠。

自社でやるか、頼⁠む⁠か

工程3は、社内で完結します。無料で試せる範囲で始めて、社内に型が残るかどうかを見てください。ここで外注を検討すべきなのは、「担当者によって仕上がりが違いすぎる」という品質の問題を抱えているときだけで⁠す⁠。

外部に相談する価値があるのは工程1です。物件データの持ち方まで含めて設計する話になるためで、ここは1社ごとに答えが変わりま⁠す⁠。

判断の前に、ひとつ申し上げておきたいことがあります。不動産会社にAIの話をするとき、当社は反響対応の自動化から入ることが多いのですが、これがまったく響かない会社があります。物件の質が良く、空室率が低い会社です。集客に追われていないのだから当然で、効きどころは会社ごとに違いま⁠す⁠。

もうひとつ、線引きの分かりやすい例があります。謄本を読み込ませて生成AIに不動産の評価をさせると、有料の評価ソフトと概ね近い数字が出ることがあります。それでもソフトを解約できるかというと、話は別です。AIの答えは幅が広く、そのままお客様に出す書類にはならないからです。 下書きは出る、完成物は出ない。この線は、マイソクの紹介文でもまったく同じで⁠す⁠。

だからこそ、着手前に自社に問うべきは「AIで何ができるか」ではなく「うちはどの工程で時間を落としているか」で⁠す⁠。

よくある⁠質⁠問

マイソクの作成を生成AIに全部任せられま⁠す⁠か

いいえ。現時点で任せられるのは紹介文やキャッチコピーの下書きまでです。物件概要の転記は自社のデータの持ち方次第、写真の選定は営業判断、レイアウトは専用ソフトや作成代行のほうが確実で⁠す⁠。

AIが書いた紹介文をそのまま掲載してもよいで⁠す⁠か

そのままの掲載は避けてください。徒歩所要時間の算出方法、「新築」の定義、「絶対」「格安」などの特定用語、取引態様の明示は、いずれも宅建業法と不動産の表示に関する公正競争規約でルールが決まっています。人が確認する工程を必ず残してくださ⁠い⁠。

費用はどのくらいかかりま⁠す⁠か

紹介文の下書きだけなら、生成AIの料金の範囲(0円〜1人あたり月数千円)で始められます。物件データからの転記まで自動化する場合は、最初の1機能に絞って数十万円規模からが目安で⁠す⁠。

顧客の個人情報や未公開の条件をAIに入れても大丈夫で⁠す⁠か

入れない情報を先に決めておくのが実務的です。マイソクの紹介文づくりであれば、公開予定の物件情報だけで足ります。オーナーの個人情報や未公開の交渉条件は入れずに済みます。ツール側の学習設定の考え方は「生成AIの社内ルールの作り方|中小企業の雛形つき」に整理していま⁠す⁠。

まず何から始めればよいで⁠す⁠か

反響の良かったマイソクを2〜3枚選び、それを読ませて紹介文の下書きを作らせるところからです。追加費用なしで、今日試せま⁠す⁠。

ま⁠と⁠め

  • マイソク作成は「転記・写真・紹介文・レイアウト」の4工程に分かれ、機械に渡せる度合いが工程ごとに⁠違⁠う
  • 生成AIで先に減らせるのは紹介文の下書き。自社の良いマイソクを2〜3枚読ませるのが精度の分か⁠れ⁠目
  • AIの原稿には、徒歩分数・「新築」・特定用語・取引態様・募集状況の確認工程を必ず⁠残⁠す
  • 転記の自動化はその後。人が毎日触る工程で効果を出してから投資判断⁠す⁠る

不動産業の業務全体をどう仕分けるかは「不動産業のAI活用|業務を分解すると導入場所が見える」を、反響対応そのものを設計し直す話は「不動産の反響から契約を増やすAI|即レスの効果と限界」をご覧くださ⁠い⁠。

どの工程から手をつけるか、ご相談くだ⁠さ⁠い

自社のマイソク作成のどこに時間が乗っているかは、実際の枚数と手順を見ないと分かりません。当社は不動産会社向けのAIエージェント構築と業務活用研修の両方を手がけています。工程の仕分けから、無料でご相談いただけま⁠す⁠。

Newslett⁠e⁠r

経営者のためのAI実践通信、隔週水曜にお⁠届⁠け

AIに任せてみた現場の実話を2〜3分で。登録無料・配信内容はこちら。

AI導入の第一歩は、
課題の整理か⁠ら⁠。

「何から始めればいいか分からない」という段階のご相談こそ歓迎です。経営メンバーが直接お話を伺い、課題を整理して貴社に合った進め方をご提案します。初回相談は無料で⁠す⁠。

お急ぎの場合は info@ai-advance.co.jp へ直接ご連絡くだ⁠さ⁠い