運送業でAIに最初にやらせることは、配車の最適化ではありません。車両ごと・荷主ごとに、いくら残っているのかを毎月同じ形で出すことです。荷物は運べているのに利益が残らない会社では、配車を効率よくしても、利益の出ていない仕事を効率よく運ぶだけになります。
この記事は、車両が数台から数十台の運送会社の経営者に向けて書いています。書くのは、何にどれだけ時間とお金が消えているのか、AI化の順番をどう決めるか、AIに任せられる範囲と任せられない範囲、費用と期間の目安、自社でやるか外に頼むかの判断軸です。
荷物は運べているのに、利益が残らない
トラック運送業の利益率は、業界全体としては回復に向かっています。ただし、その回復は台数の多い会社が牽引しており、小さい層は取り残されています。
全日本トラック協会「経営分析報告書(概要版)令和6年度決算版」(対象期間:令和5年10月〜令和7年8月、有効数2,631者)によれば、貨物運送事業の営業収益は1者平均で285,215千円、営業損益率は1.0%、経常損益率は2.5%でした。いずれも前年より改善しています。
ただし、この平均は自社の姿ではありません。同じ報告書は、車両10台以下の区分では営業赤字が62%、経常赤字が53%に上ると書いています。経常損益率も、10台以下は▲0.5%で、全体の2.5%と符号が逆です。11〜20台で2.1%、21〜50台で2.4%、51〜100台で3.5%。台数が増えるほど改善し、いちばん小さい層だけが逆を向いています。
そして、その取り残されている層が業界の多数派です。国土交通省の「貨物自動車運送事業者数(規模別)」(物流・自動車局貨物流通事業課、令和7年3月31日現在)では、事業者62,383者のうち車両10両以下が34,164者で54.8%、11〜20両が13,181者で21.1%。合わせて75.9%が20両以下です。従業員10人以下の事業者も49.3%あります。
数字の話をもう一段だけ続けます。同じ報告書によれば、分析対象期間の軽油の平均価格(一般小売価格・消費税等を含む)は1リットル166.7円で、前年度から9.2%上がりました。それなのに、営業費用に占める燃料油脂費率は前年度の14.9%から13.5%へ下がっています。全ト協はその理由として、2024年問題に対応した短距離運行へのシフトと、軽油価格に対する補助金(燃料油価格激変緩和補助金)による調達価格の下落効果を挙げています。
ここが読みどころです。燃料費の比率が下がったのは、燃費が良くなったからでも、交渉がうまくいったからでもありません。 運び方が変わったことと、制度が効いたこと。つまり自社の外側の要因で動いた数字です。自社の車両別の実態を持っていない会社は、この手の変動が起きたときに、良くなったのか悪くなったのかすら判断できません。
AI活用の記事に出てくるのは、たいてい2桁大きい会社の話
一般に流通している「運送業のAI活用」の情報は、車両20両以下の会社を読者に想定していません。
2026年8月時点で「運送業 AI 活用」の検索上位10ページの見出し構成を確認しました。出てくる事例はほぼ同じ顔ぶれです。大手宅配会社の再配達削減、飲料メーカーの需要予測、大手ECの自動化倉庫、海外の大手物流会社のルート最適化。解説される活用領域も、需要予測・在庫最適化・倉庫自動化・配送ルート最適化・検品の自動化に集中していました。
書かれている内容が間違っているわけではありません。ただ、事業者の75.9%は車両20両以下で、倉庫を持たない会社が大半です。荷主が決めた配送先を回る仕事では、ルートの引き直しで生まれる余地も限られます。需要予測は、そもそも予測すべき自社の需要データが手元にありません。
そして、上位10本の見出し構成のどこにも、車両別・荷主別の採算や、運賃交渉の根拠づくりは入っていません。上位の記事が扱っていないのは、「利益が出ているかどうかが分からない」という状態そのものです。
当社が経営の相談で運送会社に入るとき、最初に出てくる困りごとは配車のロジックではありません。燃料と修繕で消えていくこと、荷主に運賃の話を切り出せないこと、そして「あの荷主は儲かっていない気がする」という感覚を数字で言えないことです。
全ト協の報告書も、結びで運賃・諸料金の転嫁とDX推進による生産性向上を並べて挙げています。転嫁とDXは別々の課題ではありません。転嫁の根拠を作る作業が、DXの最初の中身になります。
最初の一手は配車ではなく、「どの車とどの荷主で残っているか」
当社が最初に着手を勧めるのは、車両別・荷主別の採算を毎月同じ形で出すことです。理由は3つあります。
1つ目。材料がすでに社内にあります。運行日報、給油の伝票、車検と修繕の請求書、荷主への請求書。新しく取り始める必要はなく、散らばっているものを集めるだけです。ここは生成AIとAI-OCRがいちばん素直に効く領域でもあります。
2つ目。出た数字がそのまま交渉の材料になります。台数の少ない会社ほど、荷主に対して立場が弱くなりがちです。「燃料が上がったので上げてください」は感想として扱われますが、「この便は他の便と比べて正味の利益率が何ポイント低く、同等にするには何%必要です」は交渉の議題になります。
3つ目。効果を自分たちで測れます。配車の最適化は、そもそも正解が分からないまま入れることになる。採算の可視化なら、来月の表を見れば効いたかどうかが分かります。担当者自身が手を動かせて、効果を自分たちで測れる領域から通すというのは、当社が業種を問わず使っている判断です。建設業で同じ考え方を適用した例は「工事写真と書類に追われる建設業」に書きました。
分解の型は次のとおりです。車両ごとに、売上から燃料費と人件費を引く。そこに車検・修繕・部品費まで乗せて、正味の利益率を出す。その並びを見ると、低単価の荷主を多く担当している車両が下に沈みます。ここまで来ると、値上げの話が「気持ちの問題」から「何%の話」に変わります。
手をつける順番
一度に全部を変えないでください。順番は次の5つです。
① 1台分・1ヶ月分だけを手で作る。 いきなり全車両でやらないことです。1台を選び、1ヶ月分の売上・燃料・人件費・修繕費を並べます。ここで必ず「取れない数字」が見つかります。給油の記録が車両単位で残っていない、修繕費がどの車のものか分からない、といったことです。この発見が2の設計になります。
② 取れない数字の取り方を決める。 給油カードの明細を車両に紐づける、修繕の請求書に車番を書いてもらう、日報の書式に1項目足す。ここは仕組みの話ではなく決めごとです。決めずにシステムを入れると、入力欄が空のまま運用が始まります。
③ 集める作業をAIに寄せる。 手書きの運行日報、給油伝票、修繕の請求書。紙とPDFで届くものを、決まった形の表に起こすところまでをAIに任せます。人は最終確認だけを行います。手書き帳票をAIに読ませるときの現実的な設計は「FAX受注をやめられない会社の、入力だけ先に減らす順番」に整理しました。
④ 毎月同じ形で出す。 一度きりの分析は資料であって、仕組みではありません。締め日の翌週に、誰が操作しても同じ表が出る状態にします。ここまで来て初めて、前月比が意味を持ちます。
⑤ 交渉と配車に使う。 出た並びを持って、単価の話をする相手を決めます。そのうえで、赤字の便を減らす・積み合わせを変える・車格を入れ替えるといった配車の判断に入ります。配車を触るのは最後です。
①から④までで、多くの会社は2〜3ヶ月です。ここを飛ばして配車システムから入ると、入れたあとに「で、儲かったのか」が答えられない状態が残ります。
AIにできること・できないこと
AIに任せられるのは、数字を集めて揃えるところまでです。いくらにするか、誰と話すかを決める工程は人が持ちます。ここは先に線を引いておきます。誇張しても、導入したあとに困るのは会社の側なので。
| 領域 | AIに任せられる | 人が決めるしかない |
|---|---|---|
| 数字を集める | 手書き日報・給油伝票・請求書を決まった形の表に起こす | 読み取り結果の最終確認、例外の扱い |
| 数字を並べる | 車両別・荷主別の集計を毎月同じ形で出す | どの費目をどの車に配賦するかの決めごと |
| 交渉 | 説明資料の下書き、想定問答の洗い出し | 運賃をいくらにするか、どの荷主から話すか |
| 配車 | 過去の割り当てから条件の候補を出す | 荷主の指定時間・車格・拘束時間を踏まえた最終判断 |
| 労務 | 記録の入力補助、様式への転記 | 改善基準告示に照らした適否の判断 |
補足を3つ。
第一に、元データが無い期間は埋められません。 給油の記録が車両単位で残っていなければ、車両別の燃料費は作れません。AIは散らかったものを整えられますが、無いものは作れません(作ったとしたら、それは推測であって実績ではありません)。
第二に、配車の完全自動化は、この規模ではまだ現実的ではないと当社は考えています。荷主ごとの指定時間、積み合わせの可否、車格の制約、ドライバーの拘束時間。条件が絡み合っていて、そのかなりの部分が配車担当の頭の中にあります。頭の中にあるものを外に出す作業(属人化の解消)が先で、それは「属人化の解消はAIで変わる」に書いた手順と同じです。
第三に、労務の判断はAIに委ねられません。厚生労働省のトラック運転者の改善基準告示では、令和6年4月1日以降、1年の拘束時間は原則3,300時間以内(労使協定があれば3,400時間以内)、1か月は原則284時間以内(例外として310時間以内・年6か月まで)、休息期間は継続11時間を基本とし9時間を下回らないこととされています。時間外労働の上限規制も令和6年4月から自動車運転の業務に適用され、特別条項付き36協定を締結する場合の年間上限は960時間です。数値は決まっており、判断の責任は事業者が負います。AIができるのは記録を揃えるところまでです。
可視化を「監視」にすると、その日から止まる
ここが実務でいちばん失敗しやすい場所です。
数字を集め始めると、必ず「ドライバーごとの燃費を出そう」「急発進の回数を人別に見よう」という話が出ます。技術的にはできます。ただ、当社が現場支援で繰り返し見てきたのは、個人を特定する形で運転の挙動を可視化しにいくと、その瞬間に現場が止まるということです。入力してくれなくなる、記録が雑になる、辞める人が出る。理由は単純で、自分の仕事ぶりを採点する道具に協力する人はいないからです。
対策は範囲の設計です。見る単位を、人ではなく車両と工程に置きます。この車は月にいくら修繕費がかかっているか、この便は積載率が低いのではないか。ここまでなら、現場も一緒に考えられます。同じ理由で、入力の増える仕組みは長続きしません。日報の項目を10個増やすより、いま書いている紙をそのまま読み取るほうが、結果的に早く定着します。
費用と期間の目安
2つの層に分かれます。
手前の層は、既存の道具でできる範囲です。 表計算と法人向けの生成AIがあれば、①から③の入口までは始められます。法人向け生成AIの価格水準は各社の公開価格で1人あたり月3,000〜5,000円台(2026年時点)です。まずここで1台分・1ヶ月分を作ってみて、どの数字が取れないかを洗い出す。この段階に外注は要りません。
奥の層は、毎月同じ形で自動的に出る状態を作るところです。 帳票の読み取り、車両マスタとの突き合わせ、集計と出力。当社の実務では、最初の1機能に絞れば数十万円規模から、複数業務にまたがる作り込みで数百万円規模、というのが目安です。内訳の考え方は「AIエージェント導入の費用相場と進め方」に整理しています。期間は、②の決めごとが固まっていれば数週間で試験運用に入れる、というのが当社が同種の案件で見ている感覚です(実測値ではありません)。
補助金では、中小企業省力化投資補助金(一般型)が候補になります。ただし、当社が建設・運送系の補助金相談で最初に確認するのは、車両そのものが対象経費に入るかどうかです。実務では対象外として扱われることが多く、その前提で車両の更新はリースや設備資金の融資で組み、補助金はデジタル化と事務の効率化のほうに寄せる、という分け方をしています。この切り分けを企画の最初に置いておかないと、申請の直前に構成を組み替えることになります。制度の選び方と申請でつまずきやすい点は「AI導入に使える省力化投資補助金の考え方と注意点」にまとめました。補助率も上限額も対象経費も公募回ごとに改定されるため、必ず最新の公募要領で確認してください。
自社でやるか、外に頼むか
分かれ目は1つです。その仕組みが、毎月自動で回る必要があるかどうか。
回らなくてよいなら、自社でやるべきです。1台分の採算を手で作る、取れない数字を洗い出す、給油カードの明細の紐づけ方を決める。ここは社長か、事務のキーパーソンが自分でやったほうが早く、そして深く分かります。外注して数ヶ月待つ理由がありません。
回す必要があるなら、設計が要ります。費目の配賦ルール、車両マスタの持ち方、締めのタイミング、日報の粒度。この4つはどれも業務の決めごとです。未確定のまま実装に入った案件は、開発力とは関係のないところで止まります。 相見積もりを取るときも、この4つに踏み込んでくる相手かどうかが見極めになります。発注前の準備は「AIエージェント開発会社の選び方」に整理しました。他の業種がどこから着手したかは導入事例も参考になります。
順番としては、自社でできる範囲を1つ通し、そこで出た数字を持って投資を判断する。狙いは人を減らすことではなく、いまの台数と人数で受けられる仕事の質を上げることです。
よくある質問
車両が10台程度でも、AIを入れる意味はありますか。 台数が少ない会社ほど、1台の採算のブレが会社全体の損益に直結します。10台の会社で1台が赤字なら、それは全体の1割です。むしろ小さいほうが、可視化の効果は数字に出やすいと考えています。ただし投資の規模は台数に合わせてください。最初から数百万円の仕組みを作る必要はなく、既存の表計算と法人向け生成AIで1台分を作るところからで十分に判断材料が出ます。
運行日報が手書きなのですが、そこから始められますか。 始められます。むしろ手書きのままのほうが、現場の抵抗は小さくなります。書き方を変えずに、書かれたものを読み取ってデータにする、という順序です。注意点は、読み取りの精度を一般論で判断しないことです。自社の日報の実物を30〜50枚読ませてみて、どこで間違うかを確かめてください。書式が統一されていない、記入者ごとに癖がある、といった要因のほうが、製品の性能差より結果を左右します。
配車システムを入れれば、採算も見えるようになりますか。 製品によりますが、多くの配車システムが持っているのは「誰がどの便を運んだか」までで、その便にいくらの燃料費と修繕費がかかったかは別の場所にあります。採算を見るには、運行の記録と、給油・修繕・請求の記録を突き合わせる必要があります。配車システムの導入を検討している場合は、その製品が車両別の費用データを取り込めるか、あるいはCSVで書き出せるかを、契約前に確認してください。
誰がこの作業を担当することになりますか。 車両別の採算を出す作業は、事務側で完結する設計にできます。運行日報は現在の書式のまま提出してもらい、読み取りと集計は事務所側で行う。ドライバーに新しい入力を求めない、というのが設計の出発点です。担当は経理か配車の兼務者が現実的ですが、最初の1台分を作る工程だけは経営者本人が関わってください。どの数字が取れないかという発見が、そのまま次の設計になるからです。人任せにすると、仕組みだけが先に決まります。月次で回り始めたあとの作業は、突き合わせの確認が中心です。
ご相談ください
この記事で書いてきたことは、要するに順番の話です。配車から入ると、入れたあとに「で、儲かったのか」に答えられない状態が残ります。採算の可視化から入れば、次に何へ投資すべきかを自社の数字で決められます。
まず試していただきたいのは、1台分・1ヶ月分を手で作ってみることです。そこで必ず「取れない数字」が出てきます。その一覧が、そのまま自社のAI化の設計図になる。取れなかった項目を見せていただければ、どこまでが仕組みで解けて、どこからが決めごとなのかを一緒に仕分けできます。当社は課題の棚卸しからAI導入コンサルティングとして伴走し、作り込みが必要な部分はAIエージェント構築・運用として設計から実装までを担当する体制です。甲府から、対面でもオンラインでも伺います。運行日報でも、燃料の集計でも、荷主との運賃の話でも構いません。