山梨は、言わずと知れた観光県です。河口湖や富士五湖、昇仙峡、八ヶ岳。そういう土地で旅館やホテル、観光施設を営んでいる方とお話ししていると、よく出るのがこの一言です。「AIって、うちみたいな宿に関係あるんですかね」。
まあ、結論から言うと、大ありです。観光・宿泊業は、数ある業種のなかでもAIととりわけ相性がいい。山梨でAI導入の支援に入りながら、私はそう感じています。この記事では、その理由と、明日から検討できる「始めどころ」を業務別に並べていきます。
観光・宿泊業がまず手をつけやすいAI活用は、次の5つです。①口コミ返信(無料のChatGPTで今日から)②インバウンドの多言語対応 ③客室QRコードのチャットボット ④需要予測による適正価格 ⑤SNS・ブログの発信支援。いずれも宿泊者名簿のような個人情報を持ち込まずに始められ、効率化より「おもてなしの価値向上」に回せるのが、この業種の強みです。
なぜ観光・宿泊業はAIを始めやすいのか
もちろん宿泊業も、機微な情報を預かる業種です。宿泊者名簿は旅館業法で作成・保存が義務づけられ、外国人のお客様ではパスポート情報も、決済ではカード情報も扱います。これらをそのままAIに渡すのは、慎重であるべきです。
ただ裏を返せば、最初にAIを当てる業務——口コミ返信・多言語対応・SNS発信・需要予測——は、その名簿やカード情報と切り離して進められます。 AIに渡すのは、公開されている口コミ、館内の案内文、天気や競合価格といった「外に出しても困らない情報」ばかり。だから、預かった個人情報には手をつけないまま、価値づくりの側からAIを始められる。ここがこの業種の入りやすさです。
もう一つ。観光業のAIは「人を減らすため」よりも「お客様への価値を上げるため」に効きます。多言語のおもてなし、きめ細かい情報提供、発信の量。守りの効率化だけでなく、攻めの価値創造に回せるのが、この業種の面白いところです。では具体的に見ていきましょう。
① いちばん始めやすいのは「口コミ返信」
最初の一歩としていちばんお勧めなのが、口コミへの返信です。
旅館やホテルの口コミ返信は、時間も気持ちもすり減る仕事です。なかには理不尽なものもある。食材の制限をうかがって対応したのに「レバーが嫌いだった」と書かれる、なんてこともあります。それでも一件一件、丁寧に返さないといけない。
ここはChatGPTが得意とするところです。スマホの無料版で十分。「あなたは宿泊専門のコンサルタントです」と役割を与え、口コミを貼り付けて「丁寧に返信を考えて」と頼むだけで、10分ほどで返信案ができます。過去の返信をいくつか読ませれば、自分の宿らしい口調にも寄ってきます。月額1万5千円ほどの返信代行サービスもありますが、まずは無料で試してから考えればいい話です。お客様の個人情報は入れないことだけ決めておけば安心です。ChatGPTは設定からデータの学習をオフにすることもできます。
さらに一歩進めると、楽天やじゃらんの口コミをまとめてAIに読ませ、「何が褒められて何が不満か」を分析させることもできます。返信という守りから、改善のヒントを得る攻めへ。同じ口コミが二度おいしくなります。
② インバウンドの多言語対応
河口湖や富士吉田のあたりは、外国人観光客がとても多い。一方で北杜市のように日本人のお客様が中心の土地もあります。自分の宿のお客様がどちらに寄っているかで、多言語対応の優先度は変わります。
インバウンドが多い宿なら、案内文・館内表示・チャットでの質問対応をAIで多言語化するだけで、体験の質がぐっと上がります。これまで「言葉が通じないから」と取りこぼしていた接客が、ふつうにできるようになる。翻訳ツールの使い方を社員さんに覚えてもらう研修も、効果が見えやすい投資です。
③ 客室のQRコードを「24時間のフロント」にする
客室にQRコードを一枚置く。読み取るとチャットボットにつながり、タクシーの手配、周辺の飲食店、チェックアウトの時間、よくある質問への答えが、その場で返ってくる。これだけで、フロントにかかってくる細かい電話がかなり減ります。
ちょっとした裏ワザもあります。古い内線電話の交換機は、更新しようとするとそれなりにまとまった出費になることがある。これをQRコードとフリーダイヤルの組み合わせで置き換えれば、その更新そのものが要らなくなるケースもあります。小さく始められるのも、この施策のいいところです。
チャットボットは一つの仕組みをWebにもLINEにも供給できます。窓口を一本化しておくと、後から広げやすくなります(チャットボットの構築(エージェント構築・運用)はこうした設計から一緒に進めます)。
④ 「適正価格がわからない」を需要予測で解く
宿の経営で本当に難しいのが、価格設定です。あるホテルの方から「うちは適正な値段がわからない」と相談を受けたことがあります。曜日でも季節でも需要が動くこの業種では、無理もありません。
ここにAIの需要予測が効きます。天気、近隣の競合価格、過去の実績をもとに、繁忙期は強気に、閑散期は地元向けに割安に——といった料金の出し分けを提案させる。空室が出そうなら地元のお客様に還元する、という「地元を大切にする」戦略とも相性がいい。
価格の話で、ひとつだけ社長さんにお伝えしていることがあります。「人件費が上がったので値上げします」では、お客様は納得しません。 順番が逆で、AIで提供価値を先に上げてから、その分を価格に乗せる。きめ細かい情報提供や多言語のおもてなしで「この宿は2万円の価値があるな」と感じてもらってから上げるのが筋です。
数字で見ると踏ん切りがつきます。年間3,200人が泊まる宿で、500円上げるだけでも年間160万円違う。口コミ評価が高いのに料金は周辺でいちばん安い、という宿はけっこうあります。そういう宿は、もう少し強気に攻めていい。AIは、その判断材料を出してくれる相棒になります。
⑤ おかみさんの日常が、そのまま発信になる
情報発信が大事なのはわかっている。でも、毎日SNSを更新する時間なんてない。これも観光業の共通の悩みです。
ここもAIで楽になります。買い物の道すがらの景色、仕込みの一コマ、季節の便り。写真を撮って、ひとこと音声メモを残しておけば、AIがSNS投稿やブログの文章に整えてくれる。わざわざ「発信の時間」を作るのではなく、日々の生活の流れのなかから発信が生まれる形にするのがコツです。これなら続きます。
人手不足のなかで、人を「おもてなし」に集中させる
清掃を80代の方が担っている施設もあるほど、この業種の人手不足は深刻です。だからこそ、口コミ返信・発信・問い合わせ対応・事務処理といった「人でなくてもできる部分」をAIに巻き取ってもらう。空いた人の手と気持ちを、お客様と向き合うおもてなしに集中させる。これがAI活用の本筋です。今いる人数で、できることを増やす、という発想です。
よくある質問
Q. ChatGPTは無料版で十分ですか? 口コミ返信やSNS文章の下書きなら、無料版でも十分に始められます。お客様の個人情報など機微な情報は入れない、というルールだけ決めておけば安心です。データの学習は設定からオフにすることもできます。
Q. 初期費用はどのくらいかかりますか? 口コミ返信や発信支援は、無料のChatGPTから始められるので初期費用はほぼかかりません。客室QRのチャットボットや需要予測のように仕組みを組む段階で費用が発生しますが、まずは無料の領域で効果を確かめてから広げるのがお勧めです。
Q. どこから始めるのがいいですか? いちばん始めやすいのは「口コミ返信」です。時間も気持ちもすり減る仕事をAIに任せて効果を実感したうえで、多言語対応・客室QRチャットボット・需要予測価格・SNS発信へと広げていくのが無理のない順番です。
まとめ
- 口コミ返信やSNS発信など個人情報の絡まない業務から始められ、価値創造に使えるためAIと好相性
- まずは無料のChatGPTで「口コミ返信」から。理不尽なクレーム対応の負担も軽くなる
- 多言語対応・客室のQRチャットボット・需要予測価格・SNS自動発信が次の一手
- 値上げは「価値を上げてから」。年間効果を数字で見て判断する
- 人手不足の今こそ、人をおもてなしに集中させるためにAIを使う
AI Advanceは甲府の会社として、山梨の観光・宿泊業のAI導入を、課題の整理からチャットボットの構築(エージェント構築・運用)、社員研修までお手伝いしています。山梨での進め方全般は「山梨の中小企業がAIを始めるには」もどうぞ。「うちの宿ならどこから始められそうか」のご相談は初回無料です。お気軽にお問い合わせください。