「AI導入に補助金が使えると聞いた」。そう相談に来られる経営者の方に、私はまず一つだけ確認します。「入れたいのは、世の中に売られているソフトですか。それとも、自社の業務に合わせて作る仕組みですか」。ここで話が二つに分かれるからです。
デジタル化・AI導入補助金2026とは、ひとことで言えば、旧IT導入補助金の後継として、あらかじめ登録された市販のITツールの導入を支援する制度です。 正式名称は「中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金」。令和7年度補正予算から、IT導入補助金はこの名称へと変わりました。名前に「AI」が入ったことで、「自社専用のAIを作る費用も出るのか」と期待される方が増えたのですが、ここに大きな誤解が生まれやすい。実は、迷子になる人がとても多い制度です。
この記事では、制度の要点と「何が対象で何が対象外か」を正確に整理し、あなたの状況ならどの制度に相談すべきかまで交通整理します。先に立場を明かしておくと、当社の本業は、自社の業務に合わせたAIエージェントの構築と、AI導入の伴走です。 市販ツールが合う会社と、作り込みが合う会社の両方を見てきたからこそ、どの制度が誰に向くかを実務の目線でお伝えできます。
制度の要点をざっと押さえる
まず全体像です。この補助金には複数の申請枠があり、代表的なものは次のとおりです。数値は表記のまま示しますが、金額も率も公募回ごとに改定されうるため、必ず後述の公式ポータルで最新をご確認ください。
| 申請枠 | 補助上限 | 補助率 |
|---|---|---|
| 通常枠 | 5万〜450万円 | 1/2以内(賃金要件を満たす場合2/3以内) |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 〜350万円 | 50万円まで3/4以内(小規模4/5以内)・超過分2/3以内 |
| インボイス枠(電子取引類型) | 〜350万円 | 2/3以内 |
| セキュリティ対策推進枠 | 5万〜150万円 | 1/2以内(小規模2/3以内) |
| 複数者連携枠 | 上限3,000万円等 | 枠・費目により異なる |
通常枠は、1プロセス以上の導入で5万〜150万円未満、4プロセス以上で150万〜450万円以下という区切りです。補助率は1/2以内が基本で、地域別最低賃金の近くで働く従業員が全体の30%以上いる月が3か月以上ある場合に2/3以内へ上がります。複数者連携枠は、商工団体やまちづくり会社、複数の中小企業のコンソーシアムが主体になる枠で、単独の一社が使うものではありません。
スケジュールについては、交付申請の募集は2026年3月30日10時に始まっています。本記事の更新時点(2026年7月中旬)では、直近の締切は3次締切=2026年7月21日(火)17時で、交付決定は9月2日(水)予定、事業実施は交付決定から2027年2月26日(金)までが予定期間でした。複数者連携枠は8月25日(火)締切とされています。ただし4次以降の締切は、この時点ではまだ日付が公表されていません。募集回・締切は次々に更新されていくので、この日付は必ず古くなります。申請を考える時点で、必ず公式スケジュールで最新をご確認ください。
何が対象になるのか——「登録ITツール制」という構造
この制度を理解する鍵は、補助の対象になる経費の定義にあります。公募要領は「補助対象経費は、IT導入支援事業者が提供し、あらかじめ事務局に登録されたITツールの導入費用とする」と定めています。ここでいうITツールとは、事務局に登録されたソフトウェア(AIを含みます)・オプション・役務・ハードウェアの総称です。
つまり流れはこうです。IT導入支援事業者が、自社の製品をあらかじめ事務局に「登録」しておく。中小企業はその登録済みツールの中から選び、支援事業者と共同事業体を組んで交付申請する。申請の主体は、あくまで支援事業者と申請者が二人三脚です。カタログに載っている商品の中から選んで買う、というイメージが近いでしょう。
「AI」という語については補足が要ります。AI機能を搭載したソフトは、登録時にその旨を申告し、ツール検索画面で「生成AI」「生成AI以外のAI」というタグが付いて表示されます。ただし、AI専用の枠が新設されたわけではなく、AIだから補助率が優遇される、といった扱いもありません。 あくまで従来のツール登録の仕組みの中に、AI搭載製品が並ぶようになった、という理解が正確です。
なお「登録ツールを入れるだけ」かというと、そうとも限りません。導入に付随する役務(導入コンサルティングや設定作業、一定のカスタマイズ作業、RPAのシナリオ制作、AIの初期学習設定など)は対象になり得ます(役務は1申請あたり200万円が上限)。「カスタマイズは一切ダメ」ではない、という点は押さえておいてください。
対象にならないもの——自社専用のオーダーメイド開発
ここが、冒頭の「どちらの話ですか」に戻る肝心なところです。自社の業務にゼロから合わせて作るオーダーメイドのAI開発は、この補助金の土俵ではありません。 これは私の見解ではなく、制度の条文にはっきり書かれています。
ITツールの登録要領は、登録の対象外になるものとして、次のようなものを明記しています。
- 業務プロセスに影響を与えるような大幅なカスタマイズが必要となるもの
- 登録申請時点で製品が完成しておらず、一般に販売されていないもの
- スクラッチ開発を伴うソフトウェア(過去コードの再利用に追加のスクラッチ開発を伴うものを含む)
- 特定の顧客向けに限定され、一般市場に販売されていないもの
自社専用のAIエージェントは、まさに「特定の顧客(=あなたの会社)向けに、ゼロから作る」ものです。定義上、市販の登録ツールにはなり得ません。名前に「AI」が入っているために「AI開発費が出る」と読んでしまいがちですが、対象はあくまで登録された市販ツールの導入費用。ここを取り違えたまま申請準備を進めると、後で土台からやり直しになります。
では、自社に合わせて作りたい会社は補助金を諦めるのか。そうではありません。目的地が違うだけで、別の制度という道があります。
状況別の交通整理
自分がどの道を進むべきか、下の表で確かめてください。列を「やりたいこと」「使う制度」「主な相談先」の三つに絞りました。
| やりたいこと | 使う制度 | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 市販の登録ITツール(SaaS・ソフト)を入れたい | デジタル化・AI導入補助金2026 | IT導入支援事業者 |
| 自社業務に合わせてAIを作りたい | 省力化投資補助金(一般型) | AIエージェント開発会社(当社もこの立場です) |
| 社員にAI研修を受けさせたい | 人材開発支援助成金 | 労働局・社会保険労務士 |
一つ目。会計ソフトや予約システム、既製のAIチャットツールのように、すでに製品として売られているものを入れるなら、この補助金が正面から噛み合います。まず気になる製品のベンダー(IT導入支援事業者)に、登録ツールとして扱えるかを相談するのが早道です。
二つ目。「うちの業務特有の手間をなくしたい」「自社の手順に合わせてAIエージェントを組みたい」という作り込み型なら、中小企業省力化投資補助金の一般型が候補になります。一般型は自社の業務フローに合わせた開発も対象に含められる余地があり、作り込みと相性がよい制度です。考え方は「AI導入に使える省力化投資補助金の考え方と注意点」で、費用感の目安は「AIエージェント導入の費用相場と進め方|中小企業の目安」で整理しています。
三つ目。ツールより先に「社員が使いこなせるようにしたい」なら、研修費用を支える人材開発支援助成金という別系統があります。詳しくは「AI研修に使える人材開発支援助成金の要点と進め方」をご覧ください。
申請前に準備しておくこと
デジタル化・AI導入補助金2026を使うと決めたら、支援事業者と話す前に整えておくものがあります。ここでつまずいて締切に間に合わない、という相談が毎年あります。
まずgBizIDプライム。これは電子申請の入口となるアカウントで、取得におおむね2週間かかります。思い立ってから慌てても間に合わないので、早めに申請してください。次にSECURITY ACTIONの宣言(★一つ星、または★★二つ星)。情報セキュリティ対策への取り組み宣言で、これも申請の前提です。加えて携帯電話番号のSMS登録が求められます。
書類面では、法人の場合、履歴事項全部証明書(3か月以内のもの)、納税証明書、直近の貸借対照表・損益計算書などが必要です。手続きの流れとしては、IT導入支援事業者とツールを選び、申請マイページに招待してもらって共同で申請内容を作成し、最後は申請者自身が提出します。補助金は事務局から補助事業者へ直接支払われます。
金額の大きい申請には条件が付きます。150万円以上を申請する場合は賃上げ要件が必須で、給与総額を年平均3%以上増やし、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上とし、それを従業員へ表明することが求められます。未達の場合は返還の規定があるので、無理のない計画にしてください。
対象にならない経費も先に知っておくと安全です。交通費・宿泊費、申請代行費、消費税、リースやレンタル、中古品、交付決定より前に購入したものなどは対象外です。「交付決定前に買ってしまった」は取り返しがつかないので、順番を必ず守ってください。
補助金ありきで決めない
最後に、制度そのものより大事なことを一つ。補助金が出るからツールを入れる、という順番は危ういということです。 補助金は投資の一部を軽くするだけで、残りは自社の負担ですし、入れた後に使いこなして成果を出すのは自社の仕事です。効果が出なければ、補助があっても損になります。
順番は逆で、まず「この投資は費用対効果が合うか」を自分で判断し、やると決めたものに補助金を乗せる。デジタル化・AI導入補助金2026は、市販の登録ツールを入れると決めた会社にとっては、負担を下げてくれるよい制度です。使うべき人にとっては、しっかり価値のある制度だと私は考えています。ただ、自社に合わない道具を「補助が出るから」という理由だけで入れてしまうのは、いちばん避けたい失敗です。
自分がどちらの道にいるのか。市販ツールを入れるのか、自社に合わせて作るのか。そこさえ見えていれば、相談すべき相手も、使うべき制度も自然と定まります。
よくある質問
Q. デジタル化・AI導入補助金2026は、いつから申請できますか?
交付申請の募集は2026年3月30日にすでに始まっています。本記事の更新時点(2026年7月中旬)では直近の締切が3次締切の2026年7月21日(火)17時でしたが、募集回や締切は更新されていくため、申請を考える時点で必ず公式スケジュールで最新をご確認ください。
Q. 個人事業主でも使えますか?
使えます。対象は日本国内の中小企業・小規模事業者等で、法人だけでなく個人も含まれます(業種ごとに資本金・従業員数の基準があります)。
Q. 自社専用のAIエージェント開発にこの補助金は使えますか?
使えません。補助の対象は事務局に登録された市販ITツールの導入費用で、登録要領はスクラッチ開発を伴うソフトウェアや、特定の顧客向けに限定され一般に販売されていないものを登録対象外と明記しています。自社専用のオーダーメイド開発を考えているなら、省力化投資補助金(一般型)が候補になります。
Q. AI専用の枠や、AIだと補助率が優遇される仕組みはありますか?
ありません。AI搭載ソフトはツール検索画面に「生成AI」「生成AI以外のAI」のタグが付いて表示されますが、AI専用枠の新設や、AIであることによる補助率の優遇はありません。
まとめ
デジタル化・AI導入補助金2026は、旧IT導入補助金の後継として、事務局に登録された市販ITツールの導入を支援する制度です。制度の構造上、対象はあくまで登録済みの市販ツールで、自社専用にゼロから作るオーダーメイドのAI開発は土俵の外にあります。だからこそ、「市販ツールを入れる」のか「自社に合わせて作る」のかを見極めることが、遠回りしないための第一歩になります。制度の詳細や最新の募集状況は、デジタル化・AI導入補助金2026の公式サイトでご確認ください。
当社は、自社の業務に合わせたAIエージェントの構築と、それに合う制度(省力化投資補助金など)の検討を、経営とシステムの両面からご一緒しています。中小企業診断士として補助金の現場を数多く見てきた立場から、「うちの場合はどの道を進み、どこに補助金を使えるか」という段階のご相談こそ歓迎です。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。