「ChatGPT、便利らしいから使ってみたい。でも、何から始めればいいのか分からない」。経営者の方からこの相談をいただくことが、本当に増えました。
無理もありません。ニュースでは毎週のように新しいAIの話題が流れ、新しいツールを入れろ、専用のシステムを契約しろ、という情報があふれています。それを真に受けて、いきなり何かを契約しようとして止まってしまう。これが一番もったいないパターンです。
実は、最初の1ヶ月にやることは、もっと地味で、もっと簡単です。お金もほとんどかかりません。この記事では、技術の話を経営の言葉に置き換えながら、最初の1ヶ月で何をやればいいかを順番に説明します。
まず「すでに入っている道具」から始める
最初にお伝えしたいのは、新しいアプリを探さないでください、ということです。
多くの方のスマートフォンには、すでにAIが入っています。Googleのアカウントを使っている方なら、Geminiという対話型のAIが、ほぼ最初から使える状態になっていることが多いです。ChatGPTも、無料版であればGoogleアカウントがあればすぐに登録できて、アプリを入れればその日から使えます。
私たちが現場で小規模の事業者さんにAIを紹介するときも、まずこの「すでに入っているもの」から始めてもらいます。新しいものを契約させない。インストールのハードルを越えさせない。その場でスマホを開いて、いま使えるもので体験してもらう。これだけで「すごい」「嘘でしょう」という反応が返ってきます。最初の一歩は、驚くほど近いところにあります。
ここで「無料版と有料版、どっちがいいのか」とよく聞かれます。一人で操作に慣れるための練習なら、無料版で十分です。ひとつだけ知っておきたいのは、個人向けのAIは初期設定のままだと、入れた情報がAIの学習に使われることがある、という点です。設定でオフにできますし、そもそも顧客の個人情報や未公開の数字のような機微な情報は入れない、と決めておけば安心して練習できます。最初の1ヶ月は、公開情報や機微でない題材で腕を慣らす。この進め方なら、難しいことを考えずに始められます。
自分の仕事の「困りごと」を1つだけ選ぶ
道具が決まったら、次は「何に使うか」です。ここで「AIで何ができるか」から考え始めると、迷子になります。逆です。**「いま自分が一番、時間を取られている、あるいは気が重い仕事は何か」**から選んでください。
たとえば、ある旅館の経営者の方は、宿泊サイトに付く口コミへの返信が大きな負担でした。理不尽なクレームに丁寧に返信するのは、時間もかかるし、精神的にもつらい。そこでChatGPTに口コミの文面を貼り付けて「丁寧な返信を考えて」と頼んでみる。すると、10分もかからずに、感じのいい返信の下書きが返ってきます。口コミ返信を外注すれば月に数千円から数万円かかることもありますが、まず無料で同じことを試してから考えればいい、というわけです。
また、ある個人サロンの方の場合は、自分のお店の集客でした。予約サイトに載せている自店の紹介ページの文章をそのままコピーして貼り付け、「このお店のマーケティングを分析して」と頼む。すると、商品・価格・立地・宣伝といった切り口で、自分のお店の強みと弱みを整理してくれます。
業種は違っても、やっていることは同じです。自分の手元にある文章を貼り付けて、やってほしいことを言葉にする。最初の困りごとは、欲張らず1つだけにしてください。
「役割」と「自分だけが知っている情報」を足す
使い始めると、最初は答えが当たり障りなく感じることがあります。ここで多くの方が「やっぱり使えない」と離れてしまうのですが、もうひと工夫で変わります。
ひとつ目のコツは、AIに役割を与えることです。「あなたは宿泊専門のコンサルタントです」「プロのマーケティング担当者として答えてください」と最初に一言添える。たったこれだけで、返ってくる答えの質がぐっと上がります。AIは、誰として答えるかを指定されると、その立場の言葉で考えてくれるからです。
ふたつ目のコツは、自分だけが知っている情報を足すことです。予約サイトに載っている情報は、誰でも見られる公開情報です。それだけでも分析はできますが、そこに「うちは1日の来客数がだいたい何人で、リピーターが多い」といった、自分しか知らない傾向を足す。すると、急に自分の店のための具体的な提案に変わります。ただし、足すのは大まかな傾向まで。客単価や売上などの具体的な経営数字、お客様の個人情報といった機微な情報は入れない、という線だけ守ってください。詳しくは次の章で触れます。
別の記事でも書きましたが、AIは空気を読みません。「いつもの感じで」が通じない相手です。だからこそ、目的と条件と、ほしい成果物の形を、言葉にして渡してあげる。これがうまくなると、AIだけでなく、若手社員や外注先への指示も上手になります。AIを使う練習は、そのまま指示力の練習になるのです。
情報の扱いだけは、最初に線を引いておく
ここは経営者として、最初に押さえておいてほしいところです。
個人向けのChatGPTやGeminiは、無料か有料かにかかわらず、初期設定のままだと入力した内容がAIの改善(学習)に使われることがあります。とはいえ、貼り付けた情報がそのまま誰かに公開される、という性質のものではありません。ただ、入力の一部が品質改善のために人の目で確認されたり学習に使われたりする点だけは、ふだんのメールとは少し違うところです。だからこそ、次の線引きが大事になります。
線を引くべきところは、はっきりしています。お客様の住所や電話番号といった個人情報、外部に出せない取引先の情報、売上や原価といった経営の機微な数字は、AIに入れない。まずこのルールを決めてください。あわせて、設定画面で入力を学習に使わせない(オフにする)こともできるので、使い始めるときに確認しておくとより安心です。なお、入力を学習に使わないことを契約で約束する法人向けプランもあり、会社としてデータの扱いを担保したい場合の選択肢になります。「入れない情報を決める」「設定を確認する」。この二段で考えれば、過度に怖がる必要も、無防備になる必要もありません。
明日からできること
最初の1ヶ月、やることをまとめます。
- すでにスマホにあるAI、またはChatGPTの無料版を、その日のうちに開く。新しい契約はしない
- いま一番、時間を取られている仕事を1つだけ選ぶ。口コミ返信、メール文の下書き、自店の分析など、文章にかかわる仕事が向いています
- 手元の文章を貼り付けて、やってほしいことを言葉にして頼む。最初は雑な指示で構いません
- がっかりしたら、役割を与え、自分だけが知っている情報を足して、もう一度頼む。3往復もすれば手応えが変わります
- 個人情報や経営の機微な数字を入れない、というルールを最初に決める。あわせて、入力を学習に使わせない設定ができることも確認しておく
この5つを1ヶ月続けるだけで、「AIは使えない」が「これは仕事に使える」に変わります。難しい設定も、専門知識も要りません。必要なのは、1つの困りごとと、それを言葉にする練習だけです。
ここまでは、お金をかけずに個人でできる範囲の話です。実際にやってみると、次の壁が見えてきます。「便利なのは分かったが、これを会社全体の仕組みにするにはどうすればいいか」「毎回コピーして貼り付ける手間を、なくせないか」。ここから先は、自分の代わりに作業まで進めてくれる仕組みづくりや、その投資に使える補助金の検討といった、経営の領域に入ってきます。中小企業向けには、省力化のための設備やシステム投資を後押しする補助金もあります。補助率や上限は枠や公募回ごとに変わるため、最新の公募要領を確認しながら設計するのが安全です。
AI Advanceでは、まず何から始めるべきかという入口の整理から、業務の仕組み化、補助金を使った投資の組み立て、社内人材の育成までを一貫して支援しています。「うちの場合、最初の1ヶ月で何をやればいいか」という段階のご相談こそ歓迎です。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。