2026年7月14日に開かれた法人向けイベント「SoftBank World 2026」(テーマ AX for Japan)の基調講演で、ソフトバンクグループの孫正義氏が、AIエージェントとヒューマノイドが労働の多くを担う未来像を語りました。この記事は、桁の大きな予測が並んだその講演を中小企業の経営者の言葉に翻訳し、「では自社は明日から何をすればいいのか」までを整理するものです。
講演の要点を数字で押さえる
まず、報道された講演の要点を数字で押さえます。孫氏が描いたのは2040年ごろの姿です。100兆個のAIエージェントと10億台のヒューマノイドが人の労働を代替し、超知能(ASI)が生み出す経済規模は世界GDPの約20%——年間およそ7,000兆円(約46兆ドル)に達する。それを支えるインフラへの投資は年間5兆ドル(約800兆円)、必要な電力は現在の発電量の約1.8倍にあたる3テラワットに及ぶ、という試算です(2026年7月15日のビジネス+IT・マイナビ・AI Watchほか各媒体の報道より)。
大切なので先に一言そえます。これらはすべて孫氏の予測であり、確定した未来ではありません。数字が当たるか外れるかを議論するより、「桁がこれだけ大きく見積もられている領域に、世界のお金と電力が向かい始めている」という事実のほうを受け止めるのが実務的です。同じ日の宮川潤一社長の講演でも、企業システムを止まらない基盤へ刷新すべきこと、そして「今後1年以内にAGIが宣言される」との見立てが語られたと報じられています(ケータイWatch、2026年7月15日)。
「AIを使う企業が、AIを使わない企業から仕事を奪う」の意味
講演で経営者に最も刺さった一言は、これでした。
「AIが仕事を奪うのではない。AIを使う企業が、AIを使わない企業から仕事を奪う」(マイナビ、2026年7月15日)
主語が「AI」ではなく「企業」である点が肝心です。脅威は機械そのものではなく、AIを使いこなす同業他社にある——そう読み替えると、これは大企業だけの話ではなくなります。
見落とされがちなのは、AIエージェントの利用単価が下がり続けているという事実です。主要な法人向けAIは1人あたり月3,000〜5,000円台の追加費用で使えるところまで来ており、価格は資本力の防壁になりません。だとすれば差がつくのは、どれだけ早く自社の業務になじませ、実際の成果に変えられるかの速さです。この点で、階層が薄く社長の一声で業務のやり方を変えられる中小企業は不利ではありません。何段もの階層と大勢の管理職を抱える大企業ほど、既存のやり方の調整に時間がかかる。むしろ中小企業のほうが、転換は速く進みます。この「階層が薄い会社ほど組み替えが速い」という構造は、カンパニーOSとはで世界の潮流とあわせて詳しく論じています。つまり中小企業は、この一言の当事者です。
経営者への3つの提言
孫氏は経営者に向けて、具体的な行動も語ったと報じられています。中小企業に引きつけると、次の3つに整理できます。
第一に、AI投資の見返りを測ること。孫氏はこれを「ROA」と呼びました。ROAは通常、総資産利益率(Return on Assets)を指す会計用語ですが、ここでは Return on AI、つまりAI投資が生むリターンという意味で使われています。ポイントは、その効果を今月の損益ではなく、2〜3年のスパンで見る姿勢です。
第二に、旗を振り続けること。孫氏は、社長にとって一番大切な仕事は「AIだ」と叫び続けることだと語りました(マイナビ、同)。号令が続く会社だけが、現場でAIが根づきます。
第三に、得意分野から攻めること。孫氏は「自分の業態の得意な分野の知見やデータはたくさん持っているわけだから、得意分野でとことんAI化を進めれば良い」と語ったと報じられています(AI Watch、2026年7月15日)。汎用の万能AIを外から買うより、自社が現に持っている知見とデータを武器にせよ、という助言です。この3つ目が、次章の伏線になります。
講演が語らなかった前提——御社のAIは、御社の何を知っているか
ここからは、講演を現場に引きつけて一言に翻訳するなら、という当社の主張です。孫氏の「得意分野のデータでとことんAI化を」という助言には、語られなかった前提があります。それは、その知見やデータがAIの読める形になっていて初めて、AIは働けるということです。
100兆個のエージェントが働けるのは、渡すべき情報が揃っている会社だけです。ところが中小企業の現実はこうです。値引きの判断基準はベテランの頭の中、過去の見積もりは紙のファイル、顧客との経緯は担当者しか知らない、社内の知識は複数のExcelに散らばっている。どんなに賢いエージェントも、読めないものは実行できません。私たちが導入支援の現場で繰り返し出会うのも、「AIが使いものにならない」の正体が、AIの賢さ不足ではなく、自社の業務知識をAIに渡せていないことだ、という場面です。孫氏の言う「自己増殖するエージェント」——人ではなくエージェントがエージェントを作る時代(CNET、2026年7月15日)——が来ても、渡す情報がなければ自社では動かせないのです。
だから準備の本丸は、AIの選定ではなく、会社の情報をAIが読める形に整えることです。この「会社の頭脳」を指す言葉として、Y Combinatorが提唱したカンパニーブレインという概念があります。散らばった社内知識を取り出し、構造化し、AIが実行できる形に変える基盤のことです。その入口である社内データの整え方は、社内データ活用の始め方にまとめました。桁の大きな未来像より、この地味な準備のほうが、明日の自社の一歩に直結します。
今日から始める3ステップ
では、何から手をつけるか。当社は、AI活用の現在地を「プロンプトだけで使う → 自社の情報を渡す → 業務を任せられる形に整える」の3段階で診断しています(物差しの詳細はAIエージェントとは何かにあります)。この2段目から3段目へ進むための、地に足のついた3ステップです。
- 録る。会議の決定や、判断の理由を記録に残す習慣をつくります。「なぜその見積もりにしたか」を一言メモするだけでも、ベテランの頭の中が資産になり始めます。
- 貯める。散らばった記録を1カ所に集めます。フォルダでもクラウドでも構いません。まず「どこを見ればあるか」を1つにするのが目的です。
- 読める形にして1業務任せる。集めた情報のうち、成果の見えやすい1業務からAIに任せます。たとえば過去の見積もりと仕様書が揃っていれば、見積書のドラフトはAIが作れます。これは誰かの職を奪う話ではなく、今の人数のままでできることを増やす話です。
大きく始める必要はありません。「乗り遅れている」と焦って一足飛びに全社改革を狙うより、1つの業務で確かな手ごたえを得てから、次へ広げる。段階を飛ばさないことが、遠回りに見えていちばん速い進み方です。桁の大きな未来像は方角を教えてくれますが、明日の一歩は、いまの自社の現在地からしか踏み出せません。
よくある質問
SoftBank World とは何ですか? ソフトバンクグループが法人向けに毎年開催しているイベントです。2026年は7月14日に「AX for Japan」をテーマに開かれ、孫正義氏の基調講演でAIエージェントとヒューマノイドが労働を担う未来像が示されました。
100兆エージェントやGDP20%という数字は本当ですか? これらは孫氏の「予測」であり、確定した事実ではありません。当たり外れを論じるより、「それだけ大きな桁で見積もられる領域に、世界の投資と電力が向かい始めている」という方向感を受け止めるのが実務的です。数字は幅をもって捉えてください。
うちのような中小企業に関係がありますか? あります。むしろ当事者です。脅威はAIそのものではなく、AIを使いこなす同業他社です。利用単価は下がり続けて資本力は防壁にならず、階層の薄い中小企業ほど転換は速く進みます。今の人数でできることを増やす変化だと捉えてください。
何から始めればよいですか? 桁の大きな未来像から入るのではなく、自社の情報を整えるところからです。会議や判断を記録に残し(録る)、1カ所に集め(貯める)、成果の見えやすい1業務をAIに任せる(読める形にして任せる)。この順に進めるのが確実です。
ご相談ください
未来像を知ることと、自社の次の一歩を決めることは、別の仕事です。AI Advanceは、御社がどの段階にいるかの現在地診断から、どの業務から手をつけるかの導入設計・コンサルティング、業務を任せられるAIエージェントの構築・運用まで、現在地に合わせて伴走します。本記事で述べた「会社の情報をAIが読める形に整える」準備そのものは、カンパニーブレイン構築サービスとして、データ整備の無料診断から支援しています。「講演の話は分かった。で、うちは何から始めればいい?」——その段階のご相談こそ歓迎です。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。